Smoky Quartz

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春霖(付き合ってない三年生キョン←谷)

ビニール傘の上で踊る雨粒が、ぱたぱたと音を奏でる。
透明な膜越しに見上げたソメイヨシノは曇り空に滲み、色を失っていた。
「週末くらい晴れてもいいだろうに」
「雨男か雨女でもこの中にいるんじゃねえの。もしかしてお前だったりしてな」
キョンの呟いた言葉に、谷口は冗談めかして答える。
雨が降ったり止んだりの気紛れな天気の中、それでも川原で花見をしていた人々が、強くなった雨脚に堪らず敷物を畳み始めていた。
今日から数日に渡って傘マークが並んでいる。
この川沿いを彩っている桜も、来週にはそのほとんどが淡紅色の絨毯へと変容していることだろう。
「こんな天候でよく花見できるな、あいつら」
「そうは言うが谷口、お前だってこうして俺と花見してるじゃねえか」
「たまたま通りかかっただけじゃ花見に入らねーよ」
止めていた歩みを進めると、半歩後ろからキョンの溜め息が聞こえた。
わざとこのルート――桜並木を選んだ真意を、キョンは知る由もない。
知られては困る理由がありながら、だが、知ってほしいとも谷口は思っていた。
痛みが胸の底を襲う。言葉として吐き出すことができたなら、きっと逃れられるだろう。
この二年で築き上げたものを自分の手で壊す意気地と、捉まえにくる諦念を振り払えるだけの気概。
そのどちらも、持ち合わせていないけれど――。
桜の花弁からぽとりぽとりと雫が滴っている。
今にも泣き出しそうな子供の顔が、足元の水溜りに映っていた。
  1. 2017/04/09(日) 17:05:41|
  2. SS
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