Smoky Quartz

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春愁秋思(キョン谷前提谷+ハル)

日色が柔らかに降り注ぐ午後。新緑の青はより深いものになり、校舎の白はより輝いている。
箒を片手にぼんやりと窓の外を眺めていた谷口は鮮やかなコントラストに目を細めた。
遠くの方で金管楽器――どの楽器なのかは判らない――の音が聴こえる。
大所帯になりつつある吹奏楽部の新入部員だろう。奏でる音階は覚束ない。
自分が入学してきた頃に想いを馳せていると、不意に刺々しい言葉が耳を貫いた。
「しっかり手を動かしなさい。こっちはあんたみたいに暇じゃないんだから」
敢えて振り向かず、適当に遇らう。涼宮ハルヒを相手取って下手に反駁するのは愚の骨頂だ。
掻き集めた細かなゴミを塵取りで掬い上げ、ゴミ箱に捨てていく。
半ばまで溜まったゴミ袋をのろのろと引っ張り出す谷口に、ハルヒは態とらしく大きな溜め息を吐いた。
「もっとテキパキ動けないわけ?」
「お前は姑かっつーの。そんな調子じゃキョンに愛想尽かされちまうぜ?」
「うるっさい!」
キョン絡みになるとすぐこれだ。
指摘されてむくれるくらい気にするなら、もう少し可愛げのある女になればいいものを――。
思って、そうなれば自分に勝ち目はないなと谷口は自嘲した。
キョンとは恋人、とまではいかないが『ただの友人』の枠を逸脱してしまっている。
一度きりで済んでいれば戻れたかもしれない。
だが何度も肌を重ねているうちに、偽りきれない心が露わになった。
端的に言えば、キョンに惚れているのだ。これまでの恋とは比べ物にならないほどに。
「あとはそれだけだから一人でいいわよね。ちゃんと捨てに行きなさいよ」
通学鞄を掴み足早に教室を去る後ろ姿に、複雑な心境でもって睥睨する。
これでも昔は、ほんの僅かな間だが涼宮ハルヒに淡い慕情を抱いていた。
いつしかそれは――花が散って緑に染まる木々のように憐憫へと変わり、
キョンと彼女との間に紡がれているものに憧憬さえ覚え見守っていたというのに、どこで釦を掛け違えてしまったのだろう。

「あんな男のどこがいいんだか」
がらんどうの空間で静かに独り笑いして、谷口はゴミ袋を持ち上げた。
  1. 2017/07/12(水) 22:52:22|
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Aliens(付き合っててちょっと病んでるキョン谷)

橙の空がじりじりと群青に侵蝕されていく。
細い三日月に寄り添う惑星は、鋭い銀の光を放っていた。
公園から一人、また一人と去っていく子供達。
休むことなく働いていたブランコは余韻で軋み、やがて静かに止まった。
喫茶店かファミレスにでも場所を移そうか迷いはしたが、何となくこの雰囲気が好ましくて。
木製のベンチに腰掛けたまま、谷口は誰もいなくなった公園をぼんやりと眺める。
そして、隣に座るキョンも。
子供達に代わって訪れた小さな夜の住人は、その翅に水銀灯の輝きを受けて、悠々と飛び回っていた。
谷口の冷たくなった指先に、慣れた体温が触れる。
重ねられたその手の平も、同じ様に冷たかった。
「――……帰るぞ」
手を繋ぎ直してキョンが立ち上がる。
空は一片の隙間もなく濃紺に覆われ、ひんやりとした風が二人の肌を撫でた。
この場に不釣合いで、異質なものを排除するように。
引かれた手を握り返した谷口は腰を上げ、並んで歩き出す。
公園の出口に差し掛かるとどちらからともなく離れ、指先はまた温度を失った。
「どっか遠くにでも行きたいな」
いつもと変わらないトーンでキョンは言う。
「……遠くって、例えば?」
「さあな」
「何だよ、それ」
月を見ながら曖昧に笑う声に、眉を顰めて谷口も天を仰いだ。
その首筋を盗み見るキョンの視線には、気付かないまま。
狭いワンルームの空間だけが、無いものねだりをする自分達の居場所だった。
  1. 2017/04/12(水) 02:00:45|
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春霖(付き合ってない三年生キョン←谷)

ビニール傘の上で踊る雨粒が、ぱたぱたと音を奏でる。
透明な膜越しに見上げたソメイヨシノは曇り空に滲み、色を失っていた。
「週末くらい晴れてもいいだろうに」
「雨男か雨女でもこの中にいるんじゃねえの。もしかしてお前だったりしてな」
キョンの呟いた言葉に、谷口は冗談めかして答える。
雨が降ったり止んだりの気紛れな天気の中、それでも川原で花見をしていた人々が、強くなった雨脚に堪らず敷物を畳み始めていた。
今日から数日に渡って傘マークが並んでいる。
この川沿いを彩っている桜も、来週にはそのほとんどが淡紅色の絨毯へと変容していることだろう。
「こんな天候でよく花見できるな、あいつら」
「そうは言うが谷口、お前だってこうして俺と花見してるじゃねえか」
「たまたま通りかかっただけじゃ花見に入らねーよ」
止めていた歩みを進めると、半歩後ろからキョンの溜め息が聞こえた。
わざとこのルート――桜並木を選んだ真意を、キョンは知る由もない。
知られては困る理由がありながら、だが、知ってほしいとも谷口は思っていた。
痛みが胸の底を襲う。言葉として吐き出すことができたなら、きっと逃れられるだろう。
この二年で築き上げたものを自分の手で壊す意気地と、捉まえにくる諦念を振り払えるだけの気概。
そのどちらも、持ち合わせていないけれど――。
桜の花弁からぽとりぽとりと雫が滴っている。
今にも泣き出しそうな子供の顔が、足元の水溜りに映っていた。
  1. 2017/04/09(日) 17:05:41|
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